詩的で口ざわりのよい文章は心地よく、詩的な科学の本としては傑作の領域。

本文中の言葉で最高の賛辞を贈る。

『あぁ、静かだ』




2003年にベストセラーになった本で、ブックオブザイヤー、本屋大賞など絶賛された小説。

映画にもなり話題になりましたが、本書の内容と映画の内容は少々違ったようです。

発売されてまもなく友人から借りたはいいが、読まないまま放置され、いまさらになって発見され、先日映画の再放送があったため触発され読んでみた。

あらすじはさまざまな書評で書かれているので書かない。

何より印象に残ったのは博士の賞賛の言葉たちでした。

「本当に正しい証明は、一分の隙もない完全な頑固さとしなやかさが、矛盾せず調和しているものなのだ。(中略)なぜ星が美しいか、誰も説明できないのと同じように、数学の美を表現するのも困難だがね。」

しかし博士の最高の賛辞は最初に説明したとおり『静か』なのです。

物語は特に大きく展開するわけでもなく、ただ静かにたんたんと、進んでいく。

そこには焼肉を食べ終える頃の最後の胃もたれも、パフェを食べ終えるころの最後のくどさもない。

冒頭で気づく。『博士の愛した数式』とは素数でなくルートなのだということに。

読み終える頃に気づく。刹那なものと永遠に変わらないものが、矛盾せずその尊さを両立していることに。

少しづつ変化していく博士と、変わらない数式の美しさの対比が見事なのです。

人ごみの中に入ると少々混乱して数字ばかりを語る博士、少し自閉症の気もあるのかなと思いつつ、

数式を愛する博士を愛してしまう。

最後にはオイラーの定理の『i』が涙にすら見えてしまう。公式が涙するのです。


事前に「はじめまして数学」を読んでいたのもポイントが高い。

本書の参考文献としても巻末にも記載されており、もう一つ上の段階で本書を楽しめたのではないかと思います。

数学や算数の教師を目指す人には目を通してもらいたい。ほめること、理解すること、尊敬すること、子供を愛すること、数式や数を愛すること。

綺麗事が綺麗に書かれているのを読むと、うれしくなります。

正直言って数学は得意でも好きでもありません。

ただ数学者や科学者が求めるロマンというものに共感できないかなと思い、最近もその手の本を探し回っています。

そして僕は今日も読み終えた本の数に1を足すのでした。