学校で学ぶべきはこれだろ、常考 書評-なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?-
なお、比較のためにもう一冊システム思考の本を買ったのでまた別エントリーで紹介する。


というわけで読んでみたが、「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?」が文系の本だったのに対してこちらは理系向け、工学向けの本。

「なぜ?」の方が非常に丁寧で良著だったためにこちらはなんとも惜しい本となってしまった印象だが、環境問題やマラリア、過疎問題などおもしろい例示もあり時間がない方にはおすすめだろう。
書籍『入門! システム思考』
この本によると、「システム思考」というのは、五十年代にMIT(マサチューセッツ工科大学)で確立され、GE(ゼネラルエレクトリック)・GM(ゼネラルモーターズ)・デュポン・マスターカードなどで、業務を効率化した実績があるらしい。東大の二人の研究者*1の共著。「入門」とあるので、とても平易に書かれており、読みやすく分かりやすい。問題解決のための一冊。

紹介はこれで十分、そして本書P180
システム思考の七ヶ条
1.人や状況を責めない、自分を責めない
2.出来事ではなく、パターンを見る
3.「このままのパターン」と「望ましいパターン」のギャップを見る
4.パターンを引き起こしている構造(ループ)を見る
5.目の前だけではなく、全体像とつながりを見る
6.働きかけられるポイントをいくつも考える
7.システムの力を利用する
(チェンジ・エージェント作成)


も書いておこう。これが理解できるだけでも本書は十分に読む価値はある。

しかしまずい点がいくつか。
1つめは説明が丁寧すぎることだ。前5章構成だが、システム思考の核である実際のループの思考にたどり着くのが第3章。それまで延々と分析例の羅列である。美味しいカレーを作る例など奇抜すぎて逆に混乱してしまう。

2つめにスタンス。
本書P52
何か技術で社会的な問題を解決しようと思ったとき、単に一つの視点だけで見ればよいと言うことにはならないのだ。



知的生産において、システム思考は思考法という「技術」の一つでしかないのだが、システム思考は「社会のあらゆるレベルで有効、5000年後も使える」としている。実は自分で限界を示しているのだが、その点にあまり触れていないのは非常にもったいない。システム思考を理解したら次は視点を深めること、基準を定め適度なバランスを模索することなど、他の思考法でやらなければならないことは多々あるはずだ。

3つめに本書P173.において教育について語っているのだが、
教育改革がどんどん進められているが、受験勉強に代表されるとおり、これまでの学校はどうしても答えが先にある問題を解く教育を施している。テストも問題と答えが一対一で対応している。

これは半分正解で半分不正解だ。

学校で学ぶべきはこれだろ、常考 書評-なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?-
100人の集団と1億人の集団では効率的に活動するために必要なマネジメントの機能が違うのだ。 「学校の常識は世間の非常識」とよく言われるが集団の規模が違うため当たり前なのだ。問題なのは集団の規模によって効率的に動くことになれる訓練が十分に行われていないことだ。

という思考法がここにも使える。
問題は解く問題のレベルというか規模なのだ。小学校レベルで、算数に1+1に2以外の答えがあっては困るだろう。中学、高等学校以降の教育において、ダイナミックな問題が増えてきて、様々な解決法があることを教えることを主張するのはかまわない。システム思考的教育を押しつけるのでなく、バランスを取る事を主張していただきたい。

このようにシステム思考の最良の使い方は対処するべき点(レバレッジ・ポイント)を見つける事ではなく、それらを見据えた末にバランスを取ることにある。
無くすのはBESTかもしれないが、人が望むのは減らすというBETTERなのだ。コストもリスクもそういう風にできている。


何はともあれ技術者のスタンスはこうであってもいいのかもしれない。前回の記事に「3.学問の外と中」という項目をつけたのはこれを考えたいがためだった。

システム思考の有効性もちょっとした限界も見えてきた。次は限界ぎりぎりまで知の高速道路を突っ走るだけだ。