いやぁ、東京からセミナー会場へ向かう電車の中で大笑いしてしまった。

名のある科学者達の奇行もさながら、著者の「男でも母性をくすぐられる」文才は見事。

科学者の実績を踏まえた上で、その研究手法から性格を読み取る分析力、それに「天才科学者の恋愛」という視点から評価を迫る斬新さ。

この一冊を通して科学の魅力と科学者の魅力と、そして著者の痛さ(「痛い」は私の中では褒め言葉のひとつ。)が読み取れる。


 本書はカソウケン内田麻理香女史による、天才科学者を功績でなく男として主観的に評価した本。人間こうした雑学には誰しも目が輝くものだし本書はその輝きを更に加速させる。

 例えば<リンク:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3% 83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC>シューレディンガーのエピソードに於いては(同P178より)
クリスマス休暇に「妻ではない恋人」とスキー休暇に出かけます。そこでなんと「エロス(性愛)の爆発」によりインスピレーションを受け、彼の名を冠したあのシュレーディンガー方程式が生まれるきっかけになるのです。ここから彼の才能が驚異的に増し、科学史上珍しい十二ヶ月続く創造的活動が始まることになりました。

と、この下世話にも(笑)研究を恋愛の観点から語るあたりが本書の最大の魅力である!!ちなみにwikipediaによればシュレーディンガーはロリコンらしい。

 また、いろんな書評サイトを見てみた所、みんなアインシュタインの女癖がどうこうって言及していますが、個人的に一番面白かったエピソードは本書に登場する唯一の日本人南方熊楠の奇行(本書P130より)
ほとんどの場合「生まれたままの姿」でいたので、ある時男性器の中にダニが入ってしまいました。腫れ上がって熱くてかゆくてたまらないので、ふと殺虫剤を尿道に吹きかけて退治することを思いつきます。

続きがどうなるかは本書を是非読んでほしいが、やはり天才科学者はプライベートでもパラダイムシフトされている。それを語る著者の品性・知性・痛さがまた味を出していることにも是非注目してほしい。

 恩師と新幹線の中で語っていたのだが、現代からの視点で言えば、エジソン(本書では登場しない)はきっとADHDだし、アインシュタインはおおよそアスペルガーだし、しかるべき処方をされていたら現代の科学技術は大きく遅れていたかもしれない。

 静岡大学の先生に、学者の仕事である「研究とは、過去の研究という山を登り、その上に一つの石を積む仕事だ」と教えられた。しかし天才科学者の功績はその山の噴火のようなものである。出てきた当初はセンセーショナルだが、冷え固まった溶岩はその山を一段と大きくする。

 ちょっと留意したい点が三つ。
 一つ目は天才科学者は女性だけでなく平和も愛していたと言うこと。
近代科学者達が女性関係は穏やかではなかったことや、発明が戦争につながってしまったと言う事から、彼らは皆自分の力のマネジメントが上手くなかったという点が失敗として一番学ばなければいけないところなのかもしれない。

 二つ目はnoteの存在。エジソンにも代表されるように、記録をしていたからこそ彼らが天才で有り続けたという仮説がある。これは絶対じゃないんだろうけど、天才科学者の伝記においてはやはりひらめきや学習力の部分ばかりを取り上げがち。これが子どもたちに無根拠で不思議な学習幻想を抱かせる。是非誰かこの面から迫った伝記をわかりやすく書き下ろしてほしい。

 三つ目に、この本にいくつかエピソードを付け足し、上下巻に分けて高校生向けのものが作れないだろうかという提言だ。下世話な(笑)言及や味のある突っ込みが本書の持ち味でもあるのだが、どうもカフェで奥様同士が韓流スターについて会話している印象で受け取れてしまう。著者としても一番読んでほしいのはやはりもっと若い世代であると思うのだ。

 竹内薫氏もそうだが、僕はサイエンスライターと言う仕事を高く評価しているし期待もしている。本書に登場するファインマンにおいてのF・ダイソンのように、最先端の研究や状況や所見をどれだけわかりやすく人々に伝えるかと言う仕事。これは従来学校の教師が大部分を担っていた。しかし現代の高度に発展した魔法のような科学の種明かしができるのは天才でなく、本当に一部の"わかった人"だけである。そしてこの中間管理職的なポジションは本当につらいことも何となくイメージできる。本記事もファンレターの一つとして受け取っていただき、励みにしてもらえたら嬉しい。

 ファインマンシリーズや「ファインマン物理学」も読んでみたくなったので、また時間を見つけてぜひさがしてみたい。