名言とはワインのようなものだ。口の中で転がせば転がすほど味がしみ出る。

マネジメントと言う概念を創ったドラッカーにであったのは大学で研究を行っていた頃。MOTに代表されるように、技術を適切に使う、適切に評価する、新たな価値を創る、と言う行為を学校でどう教えるべきかを検討していた時に出会った。

「マネジメント」は何に対しても重要な概念であり、「管理」という日本語は当てはまらないと思っている。

本書は就職の祝いに恩師にもらった自分にとっては非常に思い入れのある一冊。名言の裏の思想を読み取る、大手企業の重役とかが好きそうな上級者向けの一冊であり、うまく語れる気がしない。

編訳者あとがきより
ドラッカー教授から名言集の編集を任されて一年がたった。集めた名言は7000を超えた。その7000の名言から、「社会的な存在としての一人一人の人間とその仕事」をテーマに約200を選んだものが本書である。


学会ができるほど、全世界での人気ぶりを見せるP.F.ドラッカー氏。

2005年に他界しているが、その人気ぶりはますます拡大している印象すら受ける。

なぜなのか。

彼の仕事に対する基本的な認識が違うのである。

ピーター・ドラッカー-wikipedia-
彼の著作には大きく分けて組織のマネジメントを取り上げたものと、社会や政治などを取り上げたものがある。本人によれば彼のもっとも基本的な関心は「人を幸福にすること」にあった。そのためには個人としての人間と、社会(組織)の中の人間のどちらかのアプローチをする必要があるが、ドラッカー自身が選択したのは後者だった。


仕事とは、奉仕でなく貢献である。

QWLと言う言葉に見受けられるように、現代の指標として仕事に対して自己満足度がどれだけあるかというのは、当然のように語られるようになってきた。若者たちは自分にあった仕事、クリエイティブで充実してやりがいのある仕事を求めて会社選びをし、一番社会を支えているであろう単純作業を軽蔑視する。

だが、ドラッカーに言わせれば、仕事は「成長」するためのものであって、自分が満足するためのものではない。本書では第一章で仕事とは何かよりも先に、成長とは何か、が名言を用いて語られる。

それから会社というもの、仕事というものを外からメタ視点で語るのである。しかしそれは、仕事はこういうものだ!と語るのではない。

知的労働、アントレプレナーシップ、チームワーク、コミュニケーション、リーダーシップと、多岐にわたって言及し、仕事と言うものの輪郭を創る。

本書に
自らの果たすべき貢献は何かという問いからスタートするとき、人は自由となる。
責任を持つがゆえに、自由となる。

と言う言葉が出てくる。

これを「仕事に対して責任を持つ」のではなく、「責任を持って貢献しようとしたことが仕事になる」のだと私は解釈した。

単なるHOW TO本とは一線を画す。10冊の自己啓発書より1冊の本書とは言わない。

10冊の自己啓発書と1冊の本書を。読んだとき初めてその言葉の重さがわかるだろう。


ドラッカーの言葉をすべてを語り尽くすにはソムリエになるより難しい気がしている。本書を新しい仕事につく前にプレゼントしてくれた恩師に非常に感謝したい。

また、本書の中にはカーネギーのような自己啓発も多分に見受けられ、カーネギーに対する言及もいくつか見受けられる。

文章を1枚にまとめる、話を15分にまとめる、速読法手本を読むなど、すべてはいかさまであるとする態度は、人は1時間語らって初めて相手を理解し始めるというドラッカー独特の人間論、コミュニケーション感覚によるものだ。

組織としてのあり方と、仕事のあり方を見直すために是非手元に置いておきたい一冊だ。