現場としては、こんな本を待っていた。

中学生を対象にメディアリテラシーを教えるとき、大いに参考にさせてもらった。

荻上流メディアリテラシー、メールの作法、荒らしへの対応の仕方、オレンジの袋文字。書いてある内容自体は当たり前のことなのだが、名言集と呼べるほど見所は非常に多い。

メディアリテラシーについて
 大きなホールで中学生300名強を対象にメディアリテラシーの講演を行った。

 ストーリーを大まかにいうと、
・メディアリテラシーは情報の扱い方が主であるということ
・新しいコミュニケーションによるメリットデメリットの確認
・携帯所持率の向上、情報の送受信について。
 →情報の取捨選択、チェーンメール、通信コスト(負荷)、善意のメールに注意
・情報発信について
 →誹謗中傷、書き込みの仕組み、対処法、ケーススタディ

という流れで行った。

一番伝えたい態度
P43より
道具がどれだけ便利で新しくても、それが人を幸せにするかどうかは、結局は使われ方によって決まる

 一番大事にしたいリテラシーである。
善悪や幸不幸は二元論ではなく必ずグレーゾーンがあり、選択を最適化する必要がある(トレードオフ)。
その判断のために、どんなメリットデメリットがあるか、その視点や関数を増やすために学校があると言っても過言ではない。知識はそれを教えるための材料に過ぎないのだ。

メールの作法
P43より
送信する内容には慎重さを、受信する内容には寛大さを

 講演のコンセプトはこれを使わせてもらった。
本書で著者は、道具には限界があること、インターネットの先には情報を受け取る人がいること、人が人である以上トラブルはつきものであること、そのトラブルを減らせばよい、と主張する。それはメールでもブログでも掲示板でもソーシャルブックマークでも一緒である。
 
また、本書に書いてはいないが、引用を明記すること、出典を明示すること、引用をふまえた上で自分の意見を主張することも重要であると伝えた。


荒らしへの対応の仕方
「Q.もしあなたの悪口が書き込まれたらどうしますか?」
なかなか適切に対応できないながらも、これの模範解答は決まっている
「無視」である。

なぜ適切に対応できないかは別にして、一般のサイトであれば、
・いつ誰が何を書いたかがデータベースに書き込まれていること。
・人の悪口を書いたら警察が管理者に記録の提示を求めることができること
・個人情報がかかれた場合などそのサイトの管理人に削除を求めることができること
を伝えた。

学校側としてはトラブルは起きないに越したことはないが、教育的視点からいえば人はトラブルも含めたイベントでつながりを強める面もある。
インターネットでけんかした友達もいれば、インターネットを通じて仲直りをした教え子もいる。フォローできる範囲の適度な失敗であればどんどんしてほしいし、それを通じて学んでほしいと個人的には思っている。


インターネットは「心」を変えるか
著者は本書の中でこうまとめる

P115
人は、手にする道具に応じてそのたびに世界の見方を変えていく生き物なんだ。(中略)つまり、心そのものが変化するというよりは、道具を通じて世界の見え方が変わり、それを受けて心の動き方や行動が変わる場合があるということだ。もちろん、技術や道具によって、心が振り回されてしまうこともある。そういうことを避けるためにも、その道具が自分のために何をしてくれるものなのかを自覚した上でふれていくのが賢いと思うよ


インターネットをはじめとした技術を評価するために、一元的な面ばかりを見ることはやめるべきだ。問題が生じたとき技術にばかり責任を押しつけても、安心する一方で技術は発展はしないどころか発展を妨げられてしまう。

科学や数学を始め、社会学や心理学、歴史、人文、哲学、法律学など様々な視点で技術を評価する力を持ってほしい。技術はジレンマを抱えながら発展していくし、技術の恩恵にあずからない人など日本にはほとんどいないのだから。