非常にまとまった構成でありながら、私立中学の紹介・分析だけでなく啓発的要素もかいま見える。

本書を読むにあたって、私学人は試されていると思っていい。

教育に対して今のままじゃダメだと思いながら打開策が見つからない人は本書を読むとよい。"教育はこうあるべきだ"の答えがバシッと示してある。しかも答えは一つではない。最適解・ロールモデルの宝庫だ。

日本の教育はまだまだ速度を維持したまま向上し続けることを確信するだろう。


 本書は私学ジャーナリストブロガー本間勇人氏による私学、特に私立中学の評価を示した本。

関東の私立中学・中高一貫校を中心に、学力などの教育手法だけでなく、経済・経営の側面や社会学のような教養的な視点からも学校を評価している。偏差値以外の基準で8つのポイントを示しているのだが非常に興味深い。本書がこれからの私学の評価指標となる重要な一冊だろう。

「名門中学の作り方」―10年前の人間存在の危機を乗り越えた名門中学
☆「名門中学の作り方」という本を執筆する機会を得た。一般に「名門中学」というと偏差値が高かったり、東大を頂点とする難関大学に合格させる学校のことをいうのかもしれない。

☆しかし、子どもたちが、自分の存在価値と普遍的な存在価値の両方をそれぞれ探究し、そのジレンマの狭間で折り合いをつける鍛錬・探究の道を追求する学びの拠点を名門中学だと設定した。


1,クオリティスコア
 本書のベースとなるのは私学におけるクオリティスコア。これは学校の"質"の評価であり、進学率や偏差値とは異なる。
 このクオリティスコアの算出方法だが、以下の12のポイントを0?5ポイントで評価して平均をだす。スコアの基準は本書で確認してほしい。
学校選択というコト[01]より
「12歳のための12の学校選択指標」

(1) 自己実現プログラムの自覚的実行力

(2) 教師の創造的コミュニケーション能力

(3) 時代の変化への対応力

(4) 本格的論文編集指導力

(5) プログレッシブな授業構築力

(6) 総合学習と他の教育活動の有機的結合力

(7) 現地校で耐えられる英語教育力

(8) あらゆる教育活動でのIT活用力

(9) 他教科に刺激を与える芸術教育力

(10) キャリア・デザインとしての進路指導力

(11) 生徒の潜在能力を引き出す教育空間デザイン力

(12) 説明会の表現力(教育理念の具体的展開のプレゼン)
そうして縦軸にクオリティスコア、横軸に偏差値を並べた者がこの図である。

2,私学危機
今から20年ほど前、1988年頃から少子化が始まったが、私学ブームは隆盛を極め、バブル崩壊後も消え去るどころか定着したように見えた。
しかし10年前の98.99年、首都圏の受験率が13%を下回り、私学にとってはターニングポイントとなった。
 10年たった現在は、実は全く同じ経済状態にあるが、首都圏の受験率は20%
を越えている。個別に学校を見ると、受験者数が減ったり低倍率・定員割れしている学校も少なくない。
 本書に示されたロールモデル校は、これらの学校にどう巻き返すべきかを提示しており、この部分にこそ本書の価値があると考えている。

3,<私学の系譜>と<官学の系譜>
本書で語られる学校の価値として「ハビトゥス」というものがある。名門中学 最高の授業にも示されていたが、伝統、習慣や校風などどれだけ文化的な資本が受け継がれているかと言うものだ。
 部活、バンカラ、私服、校則、学生運動など、それらが伝統として位置付いていることが人格形成=教育に大きく影響を与えるというのだ。
 実際「関わり合い」の教育効果が最近になり大きく見直されており、ワークショップやエンカウンターなどの教育手法は有名だが、これを名門中学は自覚的であれ無自覚であれ行ってきたというのだ。
特に塾に起源をおく次世代のリーダーを育成するための学校には<私学の系譜>
学制令ができてから普通教育として競争原理の中で教育を受けさせる<官学の系譜>。
これらが密接に影響し合って受け継がれてきたことで教育を高め合ってきたが<私学の系譜>に軸をおくべきであろうというのが著者の主張として読み取れた。
 それらを表した者はこの記事に図示してある

4,伸びる学校の8つの力
それらを踏まえた上で、これからの学校のビジョンを8つのポイントから提示している。わかりやすい要約が示してあったので引用。大阪の知事に読んでいただきたい。
ORCALIBRIS | 名門中学の作り方―未来志向の学校を選ぶ8つのポイントより
?開く力
学校のビジョンや教育内容の理解の共感を得る力
?横断する力
従来の縦割りのカリキュラムを越えて、21世紀型の知に対応するカリキュラムを作る力
?創造的にコミュニケーションする力
才能、技術、寛容といった創造的な人材に必要とされる資質を育てるコミュニケーションができる力
?世界標準の知を探求する力
論理的思考力、批判的思考力、創造的思考力を伸ばす力
?共学化する力
格差を解決していく力
?結びつける力
大学や企業などとの協働関係から得られる体験知を普段の学園生活の中まで浸透させる力
?ステークホルダーをマネージメントする力
在校生、卒業生、保護者、教員、理事、地域などからなるヒューマンネットワークをマネージメントする力
?『私学の系譜』を持続可能にする力
建学の精神に基づいて、普遍的な価値を保守しながら、独自の教育を構築する力
となっている。


5,気になる点

本書の気になるところをを上げるとすれば、2点だ。
 一つ目は本書に紹介された学校に対するネガティブな情報が少ないし、してきてあったとしても些細な問題だと切り捨てているところ。確かに問題を的確に指摘すればあとは問題解決は容易だろう。だが褒め殺すだけでは従来の中学校の紹介本とポジション的には変わらない。
 二つ目は「多くな物語」「動物化されたポストモダン」「ジョンロールズの正義論」など、本書では教養を必要とする用語が多々見受けられる。これが本書の対象となる読者をぼかしている。教育を語る/評価するのであればこれくらいは踏まえておけと言う啓発的な要素ともとれた。
 対象となるべきステークホルダーすなわち、中学受験を控えている/考えている保護者をはじめ、私学でつとめる人間、それから我が子に公立校にやるつもりだから関係ないと思っている者や、教育をブログで語りたい人は一度目を通しておいた方がよい、それほど中身の濃い一冊であった。