『ドラゴン桜』ブランドのビジネス書。

期待が高かっただけに本作は一番面白くない一冊だった。

内容としてはそこいらに売っているビジネス書や自己啓発書、ライフハック本と変わらない。

なぜ「ここ一番」で失敗するのか、著者はこう答える。

答えは読んだまんまシンプルだ。P193本書エピローグより
「難しく考えるな シンプルを極めろ」


今あなたを悩ませている問題なんて、ほとんどが「よくある悩み」であり、何ら特別なものではないのだ。(中略)人は「普通じゃない状況」や「いつもと違う環境」に置かれると、どうしても「普通」に振る舞えない。やたら深刻に考えたり、肩に力が入って空回りしたり、一発逆転wp狙って奇策に走ったりしてしまう。


だそうだ。言われてみればその通りである。ではどうしろと言うのか。本書では「本番力」という抽象的な表現でそれを説明している。以下に要約する。

1.ホームとアウェイ
・野球のホームとアウェイのように、仕事や勝負においてその場所や環境が自分に与える影響は大きい。まずはホームでの勝負を意識して商談なりここ一番の問題をクリアすること。
・ホームでは負けなければ勝てる。まずはホームを作ること。
・好かれようとするよりは嫌われないように振る舞い、それから社内での立ち回りとして、一番人とつながっている営業力のある人と仲良くしろ、本当に力のあるやつはプライベートでも友達が多い、と言う。これはSEなんかでも大事な視点で、よほどの天才出ない限り交代要員は多数いるため、切られないように対人スキルを発揮しておく必要がある。

2.基本的な考え方として
・好かれるのは難しいが嫌われるのは簡単。嫌われるやつを徹底的に分析して嫌われる行動をしなければ人に嫌われることはない。
・性格を変えるより行動を変える方が簡単。
・時間は有限で、火のついた爆弾の導火線のようなもの。
P100より
人は「物事には限りがある」とわかったとき、はじめて戦略的になれる


3.具体化する
同様に抽象的だから駄目、具体化しろという主張はどの本でも見られる。本書も同様に「禁止のルール」と「実行のルール」を用いて例示して示してある。
・禁止のルール…コンビニの場合「お客を待たせるな」
・実行のルール…「レジ前にお客さんが二人以上並んだら、別のレジを開けてそっちに誘導」
といった具合に抽象的な禁止のルールを具体的にどう実行するのかを決めろと言うだけの話。よくよく考えるとここら辺はレトリックで、「一日3本以上たばこを吸わない」という具体的な禁止のルールも設定できれば「朝早く起きる」と言った抽象的な実行のルールを決めることもできる。

ここらあたりから内容が胡散臭くなってくる。

4.言い換えろ
・定義を考えろ、逆を考えろ
→仕事の逆はプライベートではない。仕事もプライベートの一部である。プライベートかどうかは「お金を払うかもらうか」の違い。
→成功の反対は失敗ではない、失敗は頭を下げれば8割が他許してもらえる、成功の逆は「挑戦しないこと」だ
→「愛」や「善」と言ったシンプルな言葉ほどしっかりとした反義語をつかむのは難しい。頭の体操にもなるのでぜひやってほしい。

・「言い換える力」をマスターしろ
→自分の仕事を誰にでもわかる言葉で説明する力が必要。仕事だけでなく自分の扱う商品や会社を小中学生でもわかる言葉で言い換えてみると本質がつかめる。

5.感想
本書はただ自己啓発のセオリーになぞって他の自己啓発本や前作の内容を言い換えているだけだ。自己啓発のセオリーとは、学習者が正しいと思っているものを否定し、強い衝撃を与え興奮状態にすることで、そのあとの説明や説得を正しいと信じ込ませる、いわば洗脳の技術だ。
中には「自己啓発書は基本的に著者の独りよがり。商業誌のビジネス漫画は読者の声を取り入れて人気のあるものが残って行く。100冊のビジネス書よりマンガを読め」とマンガ家である著者のポジショントークむき出しの一節も出てくる。このあたりで非常に胡散臭くなってしまった。マンガもビジネス書も当たりはずれは当然ある。
他所でも読める内容を合目的的に語っているだけで、特に新規性はない。以前の3冊を手に取って読むほうが賢明かもしれない。

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