14歳からの社会学同様、こちらも壮大な自分語りだが、ちゃんと一章裂いて自分を語っている。

あちらが本を使ったメッセージであったのに対し、こちらは本を通したカウンセリングである。思春期に入った子どもの気持ちがわからないというのは、親にとっても第二の思春期であり、本当にわかっていないのは自分であったりするものだ。

今までは、自分がわからなくなっても、自分はこういう人間だと言い聞かせてきたし、それが有効であった。ある意味自己暗示が人間性を決めていた。

今は違う。とよく言われる。どう違うのだろうか。

本書は精神医学者香山リカによる理解しづらい思春期の子どもたちの心理について解説本。本書の中では読者にカウンセリングで語りかけるように若者の恋愛観や人生観を語る。

若者を取り巻く環境で、過去と違う要素と言えば法律と技術である。活版印刷ができて著作権ができたように、技術が世の中のルールを作る(きっかけとなる)ので、一番に技術が変わったと言い切っていいだろう。

1.尾崎豊の気持ちがわからない
 思春期の若者たちが尾崎豊に象徴される「自由になりたい」という叫びに共感できないという。彼らは十分自由で恵まれた環境でこれ以上自由になりたいという意味がわからない、破壊行為など賛同できないというのだ。これは同時に"反抗期のない子供"の増加につながっているのだという。友達親子であったり摩擦や衝突を避けるコミュニケーションであったり、いろんな変化が見えるのだという。

2.離人症
 しかし一方でいい子だった娘が急にリストカットをしたり過食や拒食を起こすこともあるという。香山氏いわくその特徴から境界性人格障害・解離性障害の一つで離人症と呼ばれる症状だそうだ。簡単に言うと自分が自分でない感覚に陥ること。現実に起きていることなのにどこか実感がわかない、自分の判断力は常に正常なのに強烈な違和感を覚え、極端な場合自殺願望が生まれる。
 これは現実感の急激な変容によるもので現実にリアリティが無くなり、リモコンで自分を操っているような感覚になってしまい、現実感を取り戻すために自傷行為を繰り返す若者が増えているのだという。
リアリティの無さと衝動行為は、同じ心理の裏と表なのではないか



3.生きづらさの原因
 現実感の変容の中で若者の特徴として常に生きづらさを感じていることを香山氏は指摘する。そこで彼女はテレビやインターネットなどのメディア技術が現実感を変えたと仮説を立てている。実証はできないが、インターネットでの占いが流行していることから、最新技術と霊能的、超能力的な何かを重ね、コンピュータが畏敬と崇拝の対照となっていること。それらをきっかけにバスジャック事件や集団自殺事件が相次いで起こり、ネットワークの世界では本人も驚くほどに生々しい感情がわき出てくるのではないかという。これについては、われわれの見方としてはもともとあったものをコンピュータのような技術が増幅・加速させたということは十分に可能性として考えられるだろう。


4.すごろく化する死生観
 彼ら若者は生きづらさの中で、香山氏が見つけた結論は以下である。
自傷行為は「今の自分を消したい、そして新しい自分を手に入れ、失った自己肯定観や自尊感情を手に入れたい」という彼なりのパフォーマンスなのです。

そして、自傷行為は現実感を引き戻すとともに自分の価値証明する自己再獲得のためのパフォーマンスなのだという。自分でない自分をさいころの目でどうなるかが決まるすごろくのコマように扱い、どうせ死んでもいい、そして運よく生きていれば新しい自分としてスタートでときるかもしれない、と考えるのだ。
これがたとえば「どうせ自分の体じゃないし」と売春などにつながって行くのだという。

5.ゴシックロリータの恋愛観
 本書の結論は結局コミュニケーション不全だという。コミュニケーション能力が乏しい、他人の思考プロセスを共有できない、他人に同じ価値観を共有させたい、そんな若者が増えているのではないか。
 本書の冒頭で「ゴスロリ殺人事件」が取り上げられている。ゴシックロリータファッションに身を包んだ恋人ふたりが「二人きりの場がほしい」と家族を殺してしまったという事件だ。ゴシックロリータは若者独特の美的感覚を象徴しており、周りに理解してもらえないことから孤独感を強めていた、離人感覚に陥り衝動行為が外へ及んだと考えられる。
 今後考えられうるのははてなもヤンキーも同じに見えてきたでも述べた「矮小化するコミュニティ」問題である。このゴシックロリータ殺人事件がもう一つ象徴するものは「自分の小さなコミュニティに文化をつくり共有したい」という感覚ではないだろうか。文化が踏襲するものではなく、そのコミュニティに属するための資格のようになりつつある。自分の文化を普及させることで自分の価値を保ち、それが少なくても一人でもわかってくれる人がいればいいと極度の依存にまで発展する。これを是正するための教育は大学の一部でしか行われていないだろうし、義務教育レベルで今後意識せざるを得ない事例になって行くのではないかという危惧もある。

気軽な気持ちで本書を手に取ってほしい。amazonマーケットプレイスで1円からあるそうだ。